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「次、ケースからクランプ取ってくれ」
「はい」
差し出された手に言われた通り計測器をのせた。
機工士のノノは出払っているため艇の主の自ら狭い場所に身体を割り込ませて、シュトラールの修理しているのだ。
●はそのサポートとして彼に付き添いその役目をこなしていた。
in the same way
「―フゥ、これでいいだろ」
暫くの間、後ろ背しか見せていなかった彼がゆっくりと身体を引きその場所から出てきた。
「お疲れ様」
「ああ、●もな」
振り返った彼の頬に汚れがついていたから、バルフレアの顔を自分に近付けさせハンカチでそれを拭った。
「あと、ついでにここも」
ちゅう、と●からの不意打ちの口付け。
「・・・おい」
そんな事をしてきた相手に乗じて自分もそれを返す。
「お前にもついてるぞ」
「本当?じゃあとって」
お互いにクスクスと笑いながらもう一度唇を重ねた。
二人でこうしているのもいいが、もうじき砂海亭に集まる時間になる。
「そろそろ行かないと」
「そうだな」
「あ、それとこの本持って行ってもいい?後で見たいなって思って」
「努力家だなお前は。それとも負けず嫌いか?」
「後者ね」
「じゃあ、俺の事は構ってくれない気か」
「そうは言ってないわ」
「そういうことだろ」
「あ、拗ねた?」
「ああ、拗ねた」
「―・・もう、今より少しでもバルフレアの近くに居たいから本を読もうと思っているのに」
「機工士にでもなるのかよ」
「違うわ、『相棒』になれたら・・・なんてね」
腰に腕を添えて遠くを見つめたバルフレアは溜息を吐いた。
「『相棒』はフランだけだ」
「・・まぁ、複数には使わない言葉だけど二人いればもっと―」
「●と組むつもりは無い」
目は見ないではっきりキッパリ言い放たれた。
「何よ。。そんなに」
「ならいいのか」
「何が」
急にバルフレアが一歩踏み出し、●の耳元で囁く。
「キス出来ないぞ?」
「―ッ!!!」
「それに、『相棒』で止まる気もないしな」
言い残したバルフレアは外へと向かっていき、●は少々顔を赤らめながらその後に続いて歩く。
言葉を交わしていればいつもこうだ、彼のペースに嵌ってしまう。
意地悪くしてると思ったら突然恥ずかしくなるような一言をさらっと言うのだ。
いつもこうでは心臓がもたないのではと悩むところでもあり嬉しくもあって複雑で・・・。
「おい、●」
「え?」
突然呼ばれて顔をあげれば、目の前にいたバルフレアの胸の中につっこんでしまった。
「ご、ごめん」
「知ってたから、こうしたんだよ」
エスコートするように軽く腰に手を添えて歩き出したバルフレア。
気づかぬうちに砂海亭までたどり着いていた事に●自身も驚いていた。
「考え事して歩くなよ、お前なら攫われるぞ」
「そんなにお金持ちに見えるかしら」
「違う、隙だらけだって事だ」
最近は特に口煩く言うようになったフレーズ。
はいはい、と受け流した●はバルフレアに本を預け、お酒を取りにカウンターへと足を向ける。
もちろんバルフレアの注文を聞いて二人分頼んだ。
お酒の用意が出来るまでカウンターに寄りかかりながら頬杖をついて目の前の瓶を眺めたりしている。
字が小さくて目を細めているだけのその姿、しかし見る人によればそれは愁いを帯びた翳のある女性に見えたりもする。
まして●は艶やかな髪を耳にかけたりとその仕草も顔立ちも品を漂わせているから尚の事で―
「どうかなさったんですか、このような所でお一人とは」
というように話しかけられる。
内心でバルフレアの事を考えていた●は突然話しかけられ、すぐに返事が出なかった。
「・・・え、、と」
「もし宜しければ僕と一緒にお酒でも」
「はいよ、お待ちどう!!」
とタイミングよく出してくれたマスターにありがとうと思いつつ、
二つのコップを持ってそれを相手に見せるようにその場から立ち去った。
面倒な事にならずに良かったなと階段を上がり二階へとたどり着きバルフレアの隣に座りお酒を渡すと、
冷ややかな目を向け口元を僅かに上げて呟いた。
「言ったとおりだろ・・?」
「何が?」
本当はそんな事聞かずとも、彼が言わんとしている事は分かっている。
私は隙があると、そう言いたいのだ。
アルコールの入ったコップに口をつけてそれからバルフレアを見る。
「じゃあ、どうすればいいのよ」
近くに来る人間全てに気を張れとでも言うのか。こればっかりは考えても分からない。
自分がいくらそうしてても、相手がどう思うかが問題なのに。
少し不貞腐れたように言葉を吐く●に、バルフレアは椅子の背に凭れてその長い足を組みなおした。
「自分ではどうしてそうなると思う?」
「世間知らずで騙され易そうだからかしら?」
「逆だ、それに他の不可抗力も混ざってるからな余計にな」
やっぱり●は自分を知らなすぎる。そう思って溜息が出た。
「諦めた様な顔してる、、、困ってるのは私も一緒よ」
説教される時間があるなら他の話ができるのに、勿体無い。そう思う―
「私に何が足りない?」
「まぁ、、強いて言えば」
「何、教えてよ」
「それは自ずと解決するさ、じきにな」
それを聞きたいと言っているのに何故こんなにも渋るのか理解できない●は、バルフレアに近寄り目を見つめる。
「お・し・え・てッ!」
「知りたいのか?」
「ええ」
間違いなく嵌っている。でも相談した時点でもはや引けない。
バルフレアは眉を上げて最後の一言を言ってしまった●に優越感を漂わせた笑みを浮かべ話した。
「男の存在を感じない」
「・・・・な、、っ・」
「俺がいるのに、だ。」
唖然として目を丸くする●。当たり前だ、いきなり宣戦布告されてその内容がこれでは・・・・顔もまともに見れなくなって、
身構えてしまう不自然な自分が余計に意識させてしまって自然と彼との距離を持つようになってしまった―
バルフレアとしては鬼ごっこにもならないこの状況を楽しんでいるのか、
ワザとらしく近づいたり離れたりして翻弄すばかり―
でも、そんな日が続けば続くほどに彼に近寄りたいと思ってしまう。
思い出したように、前に借りた本を返さなければならなくて意を決してドアを叩けば
バルフレアは皆と一緒にいるときの表情で●に話しかける。
「慣れたか?」
「気を張ることにはね」
「意識はしてたみたいだしな」
「当たり前よ、でもこれ他の人に応用できる事なの?」
「さぁ」
「さぁ、って、バル―ッ!」
グイと強く引っ張られた腕と腰。引き込まれた部屋のドアを行儀悪く足で蹴り、閉められたドアに●は押し付けられた。
「突然過ぎる・・・」
その割には落ち着いた声―
「先に言ったろ?」
「さぁ」
口真似をしたその口を閉じようと唇が近寄るがそれを遮った一冊の本。
「返しに来ただけよ」
「それは口実だろ」
手から離れた本はドサリと音を立て床に落とされ、隔てるものがなくなって触れた唇が熱い―
そう感じられるのはきっと自分も彼を求めているから。
言葉に押されて、行動に煽られて上がってきた場所はバルフレアと同じ高さで
周到なまでの甘い罠に囚われ、一体何処まで堕ちていけばいいのか分からなくてその唇をただ甘受けした――